利根町の昔話

第1話-お雪哀話 第2話-狂歌師抜村 第3話-明神の絵馬 第4話-蚊帳沼
第5話-奥山の観音様 第6話1-子育て地蔵 第6話2-不思議な男 第7話-笠ぬぎ沼

子育て地蔵

(布川の話)

(利根町生涯学習だより第28号―利根町昔ばなし第22話より)
郷土歴史研究家 長島平衛 著

今年もにぎやかな地蔵市がやってきました。
40年ぐれい前までは、サーカスなんかもやってにぎやかだったんだ どー。いろんな店や植木屋ももっとしっかり(たくさん)出て、それ はそれはにぎやかだったっけなアー。みんな「子育て地蔵様」におめ いりするが、あの地蔵様には、こんな話しがあったんだ。知ってっか な。

今から300年ぐれい前に布川にある夫婦が住んでいだ。二人は長い 間子供に恵まれねがったが、13年目にようやぐ一人の男の子が生れ だ。二人はたいへん喜んで目さ入れでもいでぐ(痛く)ねいほどかわ いがって育てでいだ。

ところが、どこどうしたか生まれてからちょうど3年目に、子どもは たいへん重い病気にかがってしまった。二人はとても悲しんで近所の 医者にみでもらって高い薬も与えでみだり、江戸がら有名なお医者さ んも頼んでみだ。しかし、ちっともよくならなかった。それで「もう ダメだ、あぎらめろ」とさしを投げられ、二人はがっかりして、その 場にペタリと座りこんでしまったそうだ。

しばらくして、父親が「おらあ、地蔵様にお願いしてくらあ」と立ち 上った。すでに日は暮れていたが「おらもいぐよ」と母親も立ち上が った、二人は地蔵様のところに行ぐと、「どうか、子供の命をどうぞ 助けてください」とお願いしたそうだ。そして次の日も、次の日もお 願いしたそうだ。

ちょうど7日目の晩のこと、お供えものを持っていつものように地蔵 様に手を会わせておがんでいると、突然お地蔵様はニッコリお笑いに なって、「毎晩毎晩ごくろうさまであったな。おまえたちのその熱心 さにはほどほど感心したぞ。子供の病気は、きっと治してやるぞ。丈 夫に育つように見守ってつかわそう・・・」と口をお開きになったそ うだ。二人はびっくりしてとびさがり、頭を地面にすりつけた。やや 時間がたって気がつき、二人が顔を上げると、お地蔵様は、もとのや さしいお顔にもどっていだ。

二人は大急ぎで家へかけもどった。すると、先程まで高い熱にうなさ れていた子供が起ぎだしておった。そして、「おらあ、腹がへった」 と云った。二人は思わず子供をだきしめると、「これはお地蔵様のお かげじゃ」お地蔵様の方角に向かって何度も何度も頭を下げだ。この お地蔵様は、毎年11月末に御開帳される。これを地蔵市といってな 昔がら近在はもちろん遠くからも参拝者が多くやって来てるわげだ。

このお地蔵様には、またこんな話がある。
20年ぐれい前、利根川上流に大雨がふり水位が上がり、布川の堤防はいまにも水が越えるほどになった。 布川の人は洪水になるのではないかとハラハラした。 すると、布佐(我孫子市布佐)側の土手から見ると地蔵様が姿をお見せになり、布川側の土手を行ったり来たりして 、土手をお守りになったそうだ。
地蔵市には皆さんも見るとよい。いつもほほえんでいるやさしいお顔をお見せになっておられる。(1999.11.22記)

利根町昔ばなし第7回

不思議な男

(利根町生涯学習だより第13号より)
利根町史編さん委員 高塚 馨著

布川の町に九という男が住んでおりました。この男は、いつも賭け事 ばかりして真面目に働こうとはしませんでした。ある夜のことです。 例によって九は、博打場へ出向き、賭け勝負をしたのですが、その夜 は、運に見放されたというのか、何度やっても、負けてばかりいまし た。そして、スッカラピンになってしまいました。仕方なく九は、や け酒を飲むと千鳥足で、我が家へ向かって歩き出しました。12月も 半ばを過ぎ、真夜中ともなると、寒さは一段と厳しく肌身に染み込ん で参ります。

九が、着物の前を両手で、しっかりと合わせ、身ぶるいしながらも、 やっと我が家の近くまでやって来た時のことです。九は不思議な男を 見かけました。この真夜中だというのに、編み笠を被り、一軒一軒、 家の中を覗き込みながら歩いているのです。九は思わず「ドロボー」 と叫ぼうとしたのですが、声になりませんでした。一体この男は何者 なのかを確かめてみたくなった九は、その男の後を付けて行くことに しました。

男は、その後も今までと同じく、一軒一軒、各家の中を覗き込み、「 ウン、ウン」とうなずきながら歩いていくのです。そして、最後に、 内宿の今の集会所のある所まで来ると、徳満寺へ向かって恐ろしい程 のスピードで石段を駈け上って行きました。九も、その後を追い駈け て上がって行きました。そして、あと一段で上り終わろうとした時で す。九は突然誰かに持ち上げられ、まっ逆さまに下まで投げ落とされ てしまったのです。しかし、あの高いところから投げられたにもかか わらず、かすり傷一つ受けませんでした。

「あれは、お地蔵様に違いない。お地蔵様は、毎夜町内を歩き回り、 町民をお守りして下さっているということだが、本当だったのだ」と 感じた九は、その日から、博打を止め、髪の毛を剃り落とし、一生を お地蔵様のために奉仕したということです。(1999.11.26)

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