「鍬始」山田幸夫句集(その2)


まづまづの元日日和なりしかば 

2000.1.12日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。     

畑隅に 置き忘れたる 我が鍬の
 
 刃先に赤き 錆浮きてをり

句集第85〜89頁より                       
行く春や鎌倉の雨逗子の雨    

雉子の巣の在所を言はず通りけり

天に鳴く茂吉の歌の蛙かな   

じゃがいもの花に隠れて逢はむとす

寝る前の玄関に飛ぶ蛍かな    

木斛の花かも白き風つのる   

はつ秋やギター弾く膝打ち重ね 

絵日記のいとどの鬚の長さかな 

芋の花人を疑ひはじめけり   

教頭の運転雨のねこじゃらし  


2000.3.1日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。    

教窓越しに 小鳥の声を 聞きながら
    厠楽しも   朝のひととき

句集第90〜94頁より                      

真二つに割ってみたくてからすうり

からすうりうしろを向いて答へけり

野暮用に出てゆく小春ごころかな

葱掘のさしさはりなきことを言ふ

また啼いて雪の鴉となりにけり 

七草の薺より摘み始めけり   

蕗のとう隣より矮鶏来て遊ぶ  

きさらぎや黒き表紙の本届く  

髪の毛の癖まざまざと梅雨深し 

秋めくや運よく利根の鯉釣れて 


  2000.2.20日付け読売新聞朝刊―日曜版―読売歌壇 
で山田氏の作品が見事2席入選を果しました。  

睾丸の縮む思ひの寒さにも   
   めげずに蓮を掘り続けたり

              茨城県 山田幸夫
清水房雄 選                     
【評】寒冷の蓮田に深く踏み入っての蓮根採取は大変な作業。
評者嘗て土浦居住の頃に屡々見たが、見るだけでも震い
あがったものだ。初句ずばりの物言いは決して野卑では
なく、実感そのままのつきつめた表出であると見たい。


2000.3.1日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。     

割烹着の 妻若若し お元日


句集第95〜99頁より                      
畦道を来る猫ありて秋めきぬ

耳さとき母に秋風立ちにけり

椋鳥に嫌気が差してしまひけり

出来秋や欠かすことなき農日誌

 くちびるにひやりと朝の通草かな

 絵馬堂のあたりが好きでからす瓜

榾の火のめらめら赤き雑煮かな

喉の奥こそばゆく春立ちにけり

手賀沼の続く限りの野焼きかな

永き日のまたも呼出し電話かな


2000.3.8日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌
に山田氏の作品が佳作一席入選しました。ご紹介いたします。  

北風の吹き荒ぶ 夜の小屋
   隅に重なり合って 
          矮鶏眠りをり
三枝昴之選                      
(評)矮鶏が重なり合って眠っている姿。いかにも厳しい寒さがそ
 こに現れる。寒さを体感として感じさせる ところがこの歌の魅力。


 2000.4.5日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌 
に山田氏の作品が佳作入選。                 
蟷螂が卵を生みし 徒長枝は
      そのまま残し 桃の剪定


川柳に佳作一席入選しました。                 
     厚底も買って中学生の春      

伏見清流選                    
(評)厚底靴が何かと話題になっているが、好奇心いっぱ
いの新学期。「春だもの私もとんで見たいよ。


  句集第100〜104頁より                     
降る雨の音に微睡む簾か

梅雨寒や聾学校の始業ベル

神の田の浅きに遊ぶ泥鰌かな

今年また家紋の花の桐咲けり

  蓑笠も納屋に古りたりつばめの巣

働いて稗の大株根絶やしに

  ぞろぞろと子連れ小綬鶏わが畑に

顔少し痩せしと思う晩夏かな

白扶養今しがた見し夢忘れ


2000.4.26日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌
に山田氏の作品が佳作に入選しました。ご紹介いたします。    

一日の農の疲れを癒やさむと
    心行くまで 鍬磨きをり


句集第105〜111頁より                     
  かぐはしき午後の刈田となりにけり

渡り鳥言葉を知らぬ子と仰ぐ

椎の実や患者同士の恋淡く


 去年今年(昭和56〜61年)                 
 書いて置くべきは書き留去年今年

お降りやとぼけ顔して野の鴉

豆撒くや四十路の終の声あげて

片方の耳ばかり鳴り春寒し

 嬉々として芹萌ゆる沢ありにけり


2000.5.24日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句
に山田氏の作品が佳作一席入選しました。ご紹介いたします。   

駅前の明るき空や初燕  
小檜山繁子選                    
(評)駅前の空間にひらいている明るい空に、初燕の飛翔。
季節の巡りあいの喜びと開放感が素直に伝わる。


句集第112〜117頁より                     
 セスナ機の翼より降りて青き踏む

わらび摘む古墳取り巻く林にて

  蝉鳴くやはじめてミシン踏む吾子に

村ひとつ隠して楠の繁りけり

 だしぬけに蛍火ひとつ落ちにけり

老ゆるなき叔父の遺影や原爆忌

水害に遇ひたる肚を決めにけり

広重の絵に飛ぶ雁となりにけり

 吹かれては鳴る数珠玉と思いけり

 妻亡しや夜更けの時雨聞きながら


2000.6.7日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。     

     減反の分だけ村の税が減り    


 句集第118〜122頁より                      
飼猫の冷たき足に踏まれけり

月蝕を見ている貌の時雨れけり

味噌汁の蕪煮くたれてしまひけり

紅梅のきはどき色を好みけり

蕨狩無欲な妻と連れ立ちて 

早苗饗や山と盛りたる餡こ餅

蛍狩視力の減りしこと言はず

にはとりを飼ふ手間隙や盆休


2000.7.14日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌
に山田氏の作品が見事に秀逸入選を果しました。ご紹介いたします。

口許を見つつ       
言葉を解しをり 
    九十二歳の耳遠き母
三枝昴之選                       
(評)補聴器に馴染めないからか、口の動きで言葉を読みとろう
  とする姿を捉えて確かな表現だ。日々の不自由のなかから
 生みだした母のその工夫が、切なくもいじらしい。  


 句集第123〜126頁より                        
母亡き妻の教え子なりし盆の僧

鳴きながら折々鶸の来る田かな

 なにもかもよく見えて水澄みにけり

びしょ濡れの運動会となりにけり

癌のなき国へ花野をまつしぐら

寒中に新米の吹きこぼるる香

藁小屋にどっと夜なべの笑い声

断りし後もしばらく懐手  

2000.8.6日付け読売新聞朝刊―日曜版―読売歌壇で         
山田氏の作品が見事2席入選を果しました。            ― 

手新聞の 連載小説 三日分
  一気に読みぬ 早苗饗の夜は
清水房雄 選                      
【評】早苗饗(さなぶり)は田植えを終えて田の神を送る行事。
最多忙労働もやっと一段落で、会食なども催される。
気掛かりな連載小説どころではない三日間だったが、溜
まった新聞をやっと開いて貪るように読むという小説好
きの作者である。                

2000.8.6日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。    

減反の「減」も一緒けたの縁


句集第127〜129頁より                     
手賀沼や夢にうつつに鶴飛んで

村議会開くたび雪降りねけり

蘆の芽や断りもせず舟借りて

芹摘みに来て餅草も摘みにけり

謎多き古墳のわらび摘みにけり

買って来し花種しばらくは蒔かず


2000.10.27日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

喜雨休み町の書店に来てをりぬ


2000.10.4日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

防人が祈願を籠めし御社の 
 茅の輪くぐりぬ戦なき世に


句集第130〜133頁より                     
どこにでもゐてそれぞれに恋雀

察するに明日は牡丹の開く日ぞ

 くらくらと病む身に来たる薄暑かな

ひたむきに家鴨飼ふ子や麦の秋

紫陽花の仕上げの色となりにけり

 こめかみのあたりひくひく草いきれ

月待つやかな文字用の筆を手に


2000.10.18日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

腰痛は我が生業の宿命と
  
   思いつつ畑の草取りてをり


句集第134〜137頁より                     
おもむろに月見の顔をあげにけり

吾子の飼う猫も夜食の座にをりぬ

ぐつぐつと煮ゆる夜食の番しばし

銀杏の実あらぬところに飛んで来し

白萩や日毎いそしむし矮鶏の世話

身に入むや病みて知りたる粥の味

身に入むや妻なきあとの野良仕事

まさきくて母は畑の菊摘みに 


2000.11.08日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

青瓜の鉄砲漬を手土産に   

吾子は下宿へ帰り行きたり


2000.11.15日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

幸せは二人並んで見た花火  


2000.11.19日付け読売新聞朝刊―日曜版―読売俳壇   
   で山田氏の作品が入選しました。 

歌垣の山の良夜となりにけり 

             茨城県 山田幸夫
句集第138〜143頁より                      
霊泉の音を汲み取り秋深し  

霜焼の痒きところに触れてみる


(春時雨 昭和62〜平成7年 より
)                   
白米を箕に盛り一の鍬祀る  

楼門に聳ゆる松や弓始    

茅花噛むひとつ違ひの弟と  

山藤のしどろもどろに揺れにけり

春時雨妻は身籠りをりしかな 

水草生ふ牛呑み込みし沼にかな


句集第144〜149頁より                        

給油所を出て田植機となりにけり

毘沙門の祭胴上げにて終る  ー

蛍籠貧しき村に住みて老ゆ  ー

十薬の花にも思ひ寄せにけり  

胡麻の花咲いて鬼怒川小貝川  

利根川の土手果てしなき良夜かな

ほうほうと利根の空鳴り稲孕む


芋の花悪しきことぶれにも似たる

新涼や白髪植えたる村の長  


冷まじや歯に挟まりし猪の肉 


蝋梅の香に佇むを習ひとす  


利根川に潮差す頃や夕千鳥  



2000.12.6日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句 
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。      

十六夜や屋根より高き利根の土手


2001.1.17日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり
文芸覧の俳句 
に山田氏の作品が秀逸に選ばれましたのでご紹介いたします。 ー

注連綯ふや裸電球納屋に吊り

              河内町 山田幸夫
岡田日郎 選                     

【評】自家用の「注連」縄造りのようだ。祖の昔から代々  

受け継がれてきた年末の仕事とも。       



2001.1.27日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句 
-ー
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。    


芋の子の髭をむしって洗ひけり


2001.1.28日付け読売新聞日曜版「読売歌壇」に山田氏の作品がニ席に選
ばれましたのでご紹介いたします。               
ーー

戦ひに敗れし如き心地にて 
   安値の米を売りたり我は

                 
茨城県 山田幸夫
清水房雄 選                        

【評】第三者からすると、この上句は大袈裟に響くかも知れぬが、 

実際に骨身を削って米を作った者としては、無理もない尤
もな感慨ということになろう。下句は政府買い入れのこと
であるだろうか。                 



2001.2.7日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句 
に山田氏の作品が秀逸に選ばれましたのでご紹介いたします。 ー

柚子の種湯槽の底に沈みをり
              河内町 山田さちを
岡田日郎 選                      

【評】「柚子」湯を楽しむひとこま。足もとのあたりに何だろうと
思ったら、「種」だったという。これも一つの発見。 



2001.4.4日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳に-ー
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。  ーーー

信号機空と海にも欲しくなり

              河内町 山田幸夫

伏見清流 選                       

【評】航空機のニアミス、ハワイ沖のえひめ丸事故と言い作者の指摘
通り。厳しい航行規制が必要。              
− ー


句集第150〜155頁より                       
紅梅や実朝の海おだやかに 
  一人来て
ちょう(左:女へん、右:羽の下に隹)
       歌の 山のわらび摘む
母屋より離れへ竹の秋なりし 

真盛りの花菜に噎せてしまひけり
牛蒡蒔く昭和を生きて来し吾が手
ふんだんに蕗食べて母すこやかに
くちなはを銜へて走るいたちかな
鷭の巣のありか断じて漏らさざる
鷭の巣のあたりの田草掻かず置く
薬草を刈り上げて乾す土用かな

千代田区の槐の花の散る日かな

利根川の漁師の通る花野かな 


ご愛読有難う御座います。句集「鍬」もあと22首を残す
のみとなりました。ただ今、山田幸夫氏に「他の作品」の
投稿を依頼中です。                

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