「鍬始」山田幸夫句集より   


 

 

藤田湘子先生の好きな作品2題
貸し借りのつまりは麦の種二升
電柱と共に枯野の中に老ゆ
      
第11頁より 2 
捨つるべき農捨て切れず鍬始
春百回鍬の柄が手の型に減る

私の母のイッメージと重なり、いただきました。
母涼し椿油の髪梳いて
 
藤田湘子先生の好きな作品 4題
密猟に基地といふものありにけり
わらわらと夜道を駆けて来て踊る
野暮用に出てゆく小春ごころかな
秋めくや運よく利根の鯉釣れて
・・・麦の種・・・(昭和46〜49年)
第11頁より 2題ー上記のとおり

第12頁より2題
父逝きぬ杉植ゑ松の苗植ゑて
文晁の画を床の間に彼岸かな
          
(註、亡父秘蔵の文晁の画)

1998.09.04付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句と
短歌に山田氏の作品が入選しました。ご紹介いたします。
                  (新聞社および本人の承諾済)

猫除の金網張って金魚飼ふ
 

一日も共に住みたる ことのなき

  我が子と逢ひぬ 示し合はせて

1998.09.11付け読売新聞朝刊よみうり文芸覧に山田氏の俳句が秀逸で選ばれました。

唐黍や野良着のままの恋なりき

句集第13〜15頁より
酢に和へて安房勝浦の新若布
葉桜や吾が腰かくる石決めて
夕立の終りにやをら立ち上がる
しあはせの色紅白にさるすべり
内職の灯に秋口の風やさし

句集第16〜18頁より
月丸し看護婦恋を育てつつ
画布立ててひよどりの鳴く林かな
くすり飲む時刻たがはず鵯鳴けり
鳴く鵯に恋の駆引きある如し
稲孕む婆ら詩吟の会重ね
稲孕む病を知らぬ婆植えて

句集第19〜25頁より
稲の穂を視る眼の皺の深からむ
出来秋や野良着のままの子守婆
秋風や心尽しの鯉を煮て
自然薯を掘る二本目の煙草かな
秋旱法を守りて鯉しなす
吟詠に出て行く婆の夜寒かな
木枯を聞くだけ聞いて眠りけり
クラクション冬遠のくと思ひけり
注連作る祖父の独語を畏れけり
身より辞書離さずに年暮れにけり
餅焼いて食ふも独りの宿直かな
日脚伸ぶ保母の資格を得し妻に

1999.03.24日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。
                  (前回新聞社および本人の承諾済)


見舞には 絶対来るなと 電話して
 インフルエンザの  熱に臥しをり

1999.04.14日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


初恋の人にもいつか皺が増え

句集第26〜30頁より
電柱と共に枯野の中に老ゆ
鷺鳴いて霧の冬田となりにけり
残り火の如くに痩せし氷柱かな
味噌蔵の薄暗がりの暮春かな
初午を欠かさず父の無き実家
葛飾の手賀の野焼の烟かな
小麦粉を後生大事に彼岸婆
霊園のかそけき春を惜しみけり
矢鱈縞着て苗取りの一人はも
妻の足冷たく五月来てをりぬ

1999.04.28日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


春待つは人のみならず土鳩鳴く

句集第31〜35頁より
妻や子や矢鱈に摘んで蕗・蕨
モナリザを見てくらくらと五月晴
ひとひらの鷺を逆光にて捉ふ
自棄糞の梅雨の寒さとなりにけり
蝉落ちて熟睡の吾子の耳うごく
さめざめとさめざめと通夜の座の蚊遣
白鷺のおどけごころにあさるかな
溝萩や父はほとけになりすまし
新月を飼ふ少女の眼きれながに
浜木綿の実を買ひにまた紀の国へ

1999.05.12日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


利根川の空に雲雀を放ちけり

1999.05.19日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。       


年金の 半分ほどを 植木屋の
 手間賃として  母は払へり

1999.05.22日第7回柳田國男記念公苑フェスティバル参加作品(俳句2首)

菜の花やむかしを偲ぶわらべ歌
春愁や妻の形見の黄楊の櫛

1999.06.23日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。

バイアグラより晩酌に眼を細め

句集第36〜39頁より
口笛の声の高さの白芙蓉
石売りが来て百姓の庭の秋
ひょっこりと夜なべの灯より出て尿る
つはぶきや婚家に古りし衣裳櫃
涙眼の婆せかせかと神渡し
アルファベットの小文字の音の落葉かな
慣例の歳暮の蓮を掘りにけり
ぜにかねの嫁の婿のと年暮るる
 

角川歳時記(第三版)より収録 

高稲架を八重垣に組み出雲かな
          山田幸夫
 

1999.07.28日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


うきうきと新じゃがいもを掘ってをり

1999.08.04日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


見るからに怒れる利根や戻り梅雨

・・・桃すもも・・・(昭和50年〜51年)
句集第43〜47頁より
世渡りの下手や上手や去年今年
密猟に基地といふものありにけり
踏めば鳴る初七日の霜柱かな
嫋やかに睡らむとして春の星
いざ弥生はげしく鳴らす琴の弦
木登りが好きで桃の木すももの木
連翹や人の気配の背後より
ゆきやなぎ三人の僧通りけり
絵馬堂の裏手のさくら咲きにけり
熊谷草の花の袋に触れたくて

1999.08.11日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌に
山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


開発を許すことなきわが村の
    青田は千里続くが如し

1999.08.18日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句と
川柳に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


空蝉や小さく御座す屋敷神
安売りの卵の列に二度並び

1999.09.22日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


矮鶏の尾に吹く秋風となりにけり

句集第48〜52頁より
春眠や癒えてゐたりし舌の傷
給料を母に渡して竹の秋
神の田を植ゑぬ罰金払ひけり
大勢でしかも淋しき田植かな
花菖蒲活けて老後を寡婦の母
草取るや霊歌折々口を出て
夕蝉にかんぬきの門閉ざしけり
わらわらと夜道を駆けて来て踊る
はつあきの月見る眉をあげにけり
耕耘機案山子を積んで通りけり

山田氏1999.09.29日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌に
の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


特徴のあるバイク音近づきて
    郵便物は今日も届きぬ

山田氏1999.10.06日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


盂蘭盆や米寿の母の座敷杖

句集第53〜57頁より
月光の下やぞろぞろ貝割菜
悔淡くをりひなげしを蒔き忘れ
葦の花ひそかに利根の鮭売られ
かりがねや音立てて沸く薪の風呂
餡掛けに煮て薄味の冬瓜かな
蒟蒻の畑で遊ぶほかはなし
ふくろふの森にて昼の水を汲む
飴買ってのぞきからくり見て冬へ
ぼこぼこと風呂湧く雪の降る夜かな
藁小屋を出てちりぢりに飾売

1999.10.13日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


にこやかに母の朝顔咲きにけり

句集第58〜62頁より
粗壁の骨が見え雪積るなり
笹鳴を地に放ちたる思ひかな
屋根替の荒縄太く垂らしけり
浅草は露地こそよけれ齋売
肉桂の根を噛めば春立ちにけり
韮の芽のぞろりと母の来る日かな
味噌汁に煮てぶつ切りの子持鮒
右向いて左を向いて桃すもも
花種をわかつ小さな子の手にも
青き踏むひらりと馬の背より降り


 
1999.10.27日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の川柳
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


豊作に笑い安値に泣かされる

句集第63〜69頁より
笛を売る店浅草は梅雨曇
寝不足の眼を腫らし繭あげにけり
母がゐて土用に蒔きしもの育つ
青柿の落つるにすべはなかれけり
秋彼岸菜っ葉蒔かねばならぬかと
木の椅子に寝て蓑虫の唄聞かな
赤松に蜻蛉は高く飛びにけり
野葡萄を黙って口に抛り込む
味噌蔵の暗き戸口や三十三才
年の瀬や真水で磨く神の物

山田氏1999.11.17日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌に
の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


一旦は出水の泥に 漬かりたる
  真菰ふたたび 起き上りたり

・・・からすうり編・・・(昭和52年〜55年)
句集第71〜77頁より

苗木市のぞく綿菓子食べながら
草屋根の裏側に咲く薺かな
仮縫ひに暇かけて春時雨かな
せらせらと田螺の道を浄めけり
散るさくら駄目を承知の神頼み
春雷のあとの月夜となりにけり
梅雨探し母に薬酒をすすめては
青葉木莵寝る前の庭歩きけり
見定めて置きし真菰を刈りにけり
牛連れて嫁ぐ日近し赤とんぼ


山田氏1999.12.1日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句に
の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


わが妻の墓まで続く花野かな

句集第78〜84頁より
闇深く通草の熟るる気配かな
凶作に輪をかけて喪の一家族
葛の花手描友禅妻が着て
からからの刈田馬跳び遊びの子
二日かな鎌倉彫の下駄穿いて
いつまでも耐へて信じて寒卵
神の木の榎は古りぬ寒雀
寒雀二羽寒鴉十四五羽
母の肩百度叩いて春近し
大袈裟に水飲み干して梅白し

1999.12.15日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の俳句
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


老いてなほ笑顔絶やさず飾売



句集去年今年より抜粋
どこからとなく煤掃きを始めけり
書いて置くべきは書き留め去年今年
初鶏を聞くや独りの寝起きにて
まづまづの元日日和なりしかば


2000.1.12日付け読売新聞朝刊いばらき第3県版よみうり文芸覧の短歌
に山田氏の作品が佳作入選しました。ご紹介いたします。


畑隅に 置き忘れたる
我が鍬の刃先に 赤き錆浮きてをり

句集第85〜89頁より
行く春や鎌倉の雨逗子の雨
雉子の巣の在所を言はず通りけり
天に鳴く茂吉の歌の蛙かな
じゃがいもの花に隠れて逢はむとす
寝る前の玄関に飛ぶ蛍かな
木斛の花かも白き風つのる
はつ秋やギター弾く膝打ち重ね
絵日記のいとどの鬚の長さかな
芋の花人を疑ひはじめけり
教頭の運転雨のねこじゃらし

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